「水の道」を可視化するWebアプリ Flow Accumulation Realtime Renderer

「もし、地面にまんべんなく雨が降ったら、水はどこを通ってどこに集まるのか?」
このアプリは、国土地理院や産業技術総合研究所が公開している精密な標高データ(DEM)を使い、その場所の地形に基づいて「どこに、どのように水が集まるポテンシャルがあるか」を可視化するブラウザアプリです。

累積流量(Flow Accumulation のつくりかた)

従来の地図では描かれないような小さな谷筋や、住宅街の中のわずかな窪みを通る水の流れが、鮮やかな色彩で浮かび上がります。地形の起伏を強調する「陰影図」と重ねることで、大地の骨格と水のダイナミックな関係を探索できます。

地形図を読むのはトレーニングが必要ですが、地形を見る専門家が頭の中で考えていることの一部を「見て」「知る」ためのアプリです。

なぜ「水の集まり方」を知る必要があるのか? 水の流れ方は、がけ崩れ土石流といった土砂災害の発生場所に深く関わっています。もし、あなたのご自宅や職場の近くに「崖」や「谷の出口」がある場合、このアプリで「上流からどのように水が流れ落ちてくるのか」を大まかに把握しておくことは、避難計画やリスク管理の第一歩となります。もちろん、実際の危険性は地質・人工改変・排水状況・降雨条件などでも大きく変わりますので、この水の流れだけで危険箇所がわかるわけではないことには注意が必要です。

防災教育や地形判読の研究、実務の補助ツールとしてはもちろん、何より「自分の足元の地形」に関心を持ち、防災を考えるきっかけにしていただきたいと考えています。

アプリの使い方

まずはアプリを開きます → Flow Accumulation Realtime Renderer

※予告なくURLを変更する場合がありますので、ブックマークは本ページにしてください。

ステップ①:場所を探す

地図をドラッグしたりズームしたりして、調べたい場所を表示してください。最初は負荷を抑えるため、地形を立体的に見せる「陰影図」のみが表示されます。

  • 対応エリア: 「標高タイルソース」を切り替えることで、計算できるエリアを切り替えられます。

ステップ②:計算を実行する

画面左側のコントロールパネルにある「累積流量の計算を実行する」にチェックを入れてください。

  • 数秒〜十数秒(PCの性能によります)待つと、標高データから計算された水の流れやすい場所が色で表示されます。
  • ポイント: 広い範囲を表示しすぎると計算に時間がかかるため、まずは市町村レベルまでズームしてから実行するのがおすすめです。
  • コツ: 地図を移動させたりズームしたりするときには「累積流量の計算を実行する」のチェックを外すことをお勧めします。チェックが入っていると、地図を動かすたびに計算が走ります。

ステップ③:集水域を抽出します

画面左側のコントロールパネルにある**「集水域抽出モード」**にチェックを入れて、水系の一部をクリックすると、その地点を起点とする集水域(その地点に向かって水が集まってくる範囲)を表示します。表示している集水域はGeoJSON形式でダウンロードできますので、GISソフトなどで再利用可能です。


各種設定の見方・調整

■ 累積流量(水の道)の設定

  • ログ伸長(感度):
    パレットの色調整をします。スライダーを右に動かすと、より累積流量の小さな水系にも色が付くようになります。
  • 上位表示(%):
    水が集まる量が多い順に、上位何%を表示するかを指定します。数値を小さくすると「大きな川」だけが残り、大きくすると「網の目のような細流」まで表示されます。
  • パレット:
    流れる水の量に応じた色の変化(水色〜濃い青など)を変更できます。

■ 地形(陰影図)の設定

  • 陰影図を表示:
    地形の凹凸を光と影で表現します。チェックを外すと、背景地図が見やすくなります。
  • 不透明度:
    背景の地図(標準地図や写真)をどれくらい透かすかを調整できます。

■ 標高データの設定

  • 標高タイルソースの切り替え:
    現在は、産業技術総合研究所のシームレス標高タイルから、静岡県・神奈川県・東京都の詳細データと、陸域全体のデータを読み込めるようにしています。「陸域全体のデータ(陸域統合DEM)」は地域によってDEMの解像度が異なりますのでご注意ください。
  • 水系の計算に利用するメッシュサイズ:
    計算に使うメッシュサイズ(DEMの解像度)は地図のズームレベルに応じて変化します。画面左側コントロールパネル上部にメッシュサイズが表示されていますので参照してください。

■ 背景地図の切り替え

  • 標準地図: 道路や建物などの位置関係を確認するのに便利です。
  • 空中写真: 実際の木々の茂り方や土地利用と、水の流れを照らし合わせることができます。
  • OpenStreetMap:海外を含む広い地域で利用できる背景地図です。「陸域統合DEM」は海外にも(解像度は荒いものの)標高データがありますので、これとの組み合わせで海外の水系も可視化できます。

活用シーンのヒント

  • 土砂災害警戒区域とみくらべる:
    崖崩れや土石流の発生が想定されている場所と水の流れ方を見比べてみると、一つの区域の中でも水の流れ方が異なることがあるとわかります。
  • 地形の学習:
    尾根と谷、扇状地、段丘など、地形の成り立ちと水の流れの関係を一目で理解する教材として活用できます。
  • 古地図や地名との照合:
    「さんずい」のつく地名や古い地名がある場所と、計算された水の集まりやすい場所を重ねてみましょう。意外な発見があるかもしれません。

アプリの使用上の留意点

このアプリは、地形データの形状のみに基づく簡易解析です。
身近な防災や地形理解のきっかけとして役立つ一方で、実際の現象をそのまま再現するものではありません。

  • 地形形状だけを見ています:
    この解析では、地面への浸透、蒸発、地表面の粗さ、土地利用の違いなどは考慮していません。あくまで「地形のかたちに従うと、水はどこへ流れやすいか」を見ているものです。
  • 建物や植生、地下構造は反映していません:
    使用している標高データでは、建物や樹木などが除去されている場合があります。
    そのため、現地では建物があって水が通れない場所でも、解析上は水が流れる結果になることがあります。また、暗渠、雨水排水管、トンネルなどの地下構造は考慮されません。
  • 道路や橋などの影響で不自然な結果が出ることがあります:
    道路の盛り土や橋、標高データの表現方法によっては、水の流れが不自然に遮られたり、実際とは異なる方向に導かれたりすることがあります。これは地形データに由来するアーティファクトです。
  • 氾濫や浸水の再現ではありません:
    このアプリは、河川の氾濫や浸水深、水位変化を再現するものではありません。
    「一定の雨が降り続いたときに、地形的にどこへ水が集まりやすいか」を示す、地形ベースの可視化です。
  • 危険箇所を自動判定するアプリではありません:
    このアプリは、災害の危険性を直接判定するものではありません
    実際の災害リスクは、地質、表層土、植生、人工改変、排水状況、降雨条件、過去の履歴など、さまざまな要因によって変わります。このアプリは地形形状のみから、水の流れやすさを可視化するものです。
  • 重要な判断には、専門的な調査が必要です:
    本アプリの結果は、現地調査、測量、設計、ハザード評価などの代わりになるものではありません。防災、土地利用、設計、施工等の重要な判断にあたっては、必ず専門家による調査・検討を行ってください。
  • ハザード情報は公式情報をご確認ください:
    重ね合わせ表示される土砂災害警戒区域などの情報は参考表示です。
    最新かつ正式な情報については、各自治体や公的機関が公表するハザードマップをご確認ください。

もっと詳しく知りたい場合はご相談ください

このアプリは、地形の専門家が「地形判読」を行い危険箇所などを考える際に頭の中で描いているプロセスの一部を可視化したものです。しかし、実際の自然災害リスクを評価するには、微地形の読み取り、現地での土質・地質調査、過去の文献調査などが欠かせません。

株式会社みてしるでは、地形データや各種オープンデータの解析、ドローンやSLAM(携帯型のレーザースキャナ)等を用いた計測、文献調査・現地調査、地形判読などを通じて、自然災害リスクの把握や地域の地形理解に関する業務を行っています。

「自宅の近くの斜面や谷地形が気になる」
「この場所の災害リスクを、地形や現地状況も含めて見てほしい」
「オープンデータだけでは分からないので、詳しく調べたい」
といった場合は、個別の調査・解析も可能です。お気軽にご相談ください


技術ノート

本アプリは、表示範囲に応じて標高タイルを取得し、ブラウザ上でリアルタイムに地形解析を実行するWebアプリケーションです。Webブラウザの計算リソースをフルに活用し、大規模なグリッド計算をフロントエンドで実行しています。

窪地処理: Priority-Floodアルゴリズムを用いてDEMの窪地(Sink)を埋め立て、すべてのセルから流出口までの経路を確保しています。

地形の窪地埋め処理のイメージ

流向計算: 多方向流アルゴリズム D-infinity (Dinf) を採用しています。従来のD8法に比べ、斜面における水の分散をよりリアルに表現可能です。

DEMから累積流量を求めるまで
累積流量のイメージ

集水域抽出: クリック地点からの逆算には、D8流向を用いた高速な幅優先探索(BFS)を実装しています。


2025年度土砂災害予測に関する研究集会

防災科学技術研究所の「土砂災害予測に関する研究集会」で「災害発生直後の状況把握のためのオープンデータ活用と現場連携」というタイトルで話題提供しました。私含め11名の発表者がいた盛沢山な研究集会でした。大変刺激になりました。

私の話題提供は2021年7月3日に発生した熱海土石流におけるオープンデータを用いた初動時状況把握の事例です。あの災害からもう4年半になりますね。当時はこの会社を作る前でフリーランスで仕事をしていた頃でした。伊豆山は、伊豆山神社をはじめ時折散策していた地域ですし、知人も住んでいた場所でした。土石流の映像をSNSで見たときには衝撃を受けました。いてもたってもいられずすぐに静岡県の点群データをダウンロードして現地の様子を調べたのを覚えています。

その後、個人として情報収集する中で、縁があって「静岡点群サポートチーム」に参加させていただき、災害の状況を把握するための地形解析等を担当しました。静岡県では全国の自治体に先駆けて「VIRTUAL SHIZUOKA」という航空レーザー計測による点群データや空中写真がオープンデータとして整備され、公開されていました。このデータが災害発生直後の状況把握のために役に立ちました。発災直後にはすぐに捜索活動などが始まっていましたので、被災地域の上流で何が起こったのかを把握することは緊急の課題でした。災害が起こる前の状況がアーカイブされているというのは、災害状況を把握するのにたいへん有効です。

「静岡点群サポートチーム」は多様な分野の専門家がほぼ自発的に集まったチームで、情報収集やオープンデータの解析など、災害発生から1週間程度の期間、さまざまな情報を提供しました。こうしたチームが機能したのは、VIRTUAL SHIZUOKAの公開にあわせて行われてきたワークショップなどの平常時の取り組みがあったという事情もあると思います。オープンデータの副次的な効果だったと言えます。普段からどのような人で何が得意なのか知っているというのは有事の連携にも大切ですということで、防災分野ではよく「顔の見える関係」と言ったりしますが、まさにそういうことでした。熱海の場合も、チームで意見交換しながら仕事をしていったことはよかったですし、効率もよかったのだと思います。

当時の解析作業は、今となっては技術的に少し古い内容も含まれますが、災害発生時のオープンデータ活用事例として、研究集会で話題提供しました。また、研究集会のテーマが「DX・生成AI時代に向けた調査・解析技術の現状と課題」ということでしたので、当時、現在のようなAIが使える環境だったらどうだったかという想像も交えてお話させていただきました。災害対応のテクニカルな面や意思決定すべてをAIに依存できるかというと現時点では難しいですし、将来的にもそうすべきでないと考えていますが、技術者・責任者のサポートや効率化には十分使える段階に来ているのではないでしょうか。

被災地ではまだ復旧・復興が進められているところです。来年7月には災害発生から5年がたつことになります。 改めて、この災害でお亡くなりになられた方々に深く哀悼の意を表しますとともに、被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

当日使ったスライド(一部差し換えています)を公開します。現在は静岡県だけでなく多くの自治体で点群データがオープンデータとして公開されています。資料が今後の災害対応の参考になれば幸いです。


2021年11月に以下の論文も書きました。合わせてご参照ください。

土砂災害時の点群データ活用と地形画像診断の提案 : 2021年7月熱海土石流災害を例として

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